2015年12月3日木曜日

酸素で枯らす

◆酸素編

(1)概要

大量の酸素が必要な状態の人に対し、酸素投与を止める。主要な臓器への酸素供給が低下するため、臓器の機能不全をきたし、死に至る。

(2)事前準備

◇モニターを外してもらう

患者は指先に洗濯バサミのような機械を付けられていることがある。酸素飽和度、通称サチュレーションのモニターだ。長いのでこの項では、単にモニターと呼ぶ。これを介して、病室にいる患者からナースステーションのディスプレイに情報が伝送され、看護師が監視している。

「じゃあ、誰も画面を見ていない時ならやり放題じゃないか」というのは甘い。ボケーッとモニター画面を見続けていられるほど医療現場はヒマではないので、異常があると看護師が携帯しているPHSが鳴るなどの仕掛けがしてあり、異常があれば看護師が飛んでくる。つまりモニターが患者についている間は酸素をオフにするとバレてしまうわけだ。

ならば、モニターを外してもらうにはどうするか。
異変を早く察知するためのモニターは、処置をしなくてよいなら必要ない。
先に述べたとおり、「急変しても何もしないで」という意思表示をしておけばよい。
一応、医療現場での意思決定の責任は医者にある。受け持ちの看護師に伝えても医者に伝わらないこともあるので、医者を捕まえてアピールしておくか、文書でも作って渡しておけばベストだ。

(3)手法

◇患者にくっついた装置には手を加えない

鼻に刺さっている「鼻カヌラ(カニューレ)」、口や鼻を覆っているおわん型の「マスク」などは決して外してはいけない。

「仕事」を完遂して患者が死亡すれば、看護師や医師が病室にやってくる。その時に患者に装着されているはずの装置が外されていると、大変だ。病院にもよるのだが、「事件か?事故か?」といって警察に届け出がなされてしまうことがある。捜査が始まっては面倒だ。

◇酸素のツマミをひねる

酸素を投与する装置はさまざまなタイプがある。人工呼吸器とかNPPV、ネーザルハイフローといった機械の操作は慣れていないと難しいし、酸素流量の記録が残ることも多いのでむやみに手を出すと墓穴を掘る。ここでは、操作が簡単なシンプルな装置にしぼって説明する。

このやり方だと酸素投与を止めたあとで、つまみをひねって酸素流量を元に戻してさえおけば、なんにも証拠が残らない。これが最大のメリットだ。

壁のパネルに管が刺さっているのを見たことがあるだろう。緑色が酸素の配管だ。古典的なタイプでは、透明な筒の中に玉が浮いている。

その下にあるツマミをひねって玉を一番下に落とすと、酸素の流れは止まり、酸素供給がゼロになる。止める前に、酸素がどれぐらい流れていたかを覚えておこう。「仕事」を完遂した後で、カムフラージュのために玉を元の位置に戻さなければならないからだ。もし患者が急変した時に酸素が止まっていたのなら、医療事故として警察沙汰になってしまう。

◇酸素中止が効果的な人


 酸素を流す量によって、患者に装着されているデバイスは異なる。左右の鼻の穴にささっているタイプを鼻カニューレ(鼻カヌラと呼ぶ人もいる)というが、これだと大した流量ではない。せいぜい5L/分程度なので、酸素をゼロにしてもたちまちクリティカルなダメージになることは少ないだろう。

一方、鼻と口を覆うタイプのマスクでは10L/分ぐらい流せる。さらに顎のところに袋がついたリザーバー付きマスクだと、15L/分まではいける。こうしたマスクが乗っている患者をみたら、酸素の量を見てみよう。ふた桁も流しているようなら、一挙に酸素をオフにすれば効果てきめんだ。


◇酸素を止めたらどうなる

モニターがついていれば、酸素飽和度(サチュレーション)がみるみる下がっていくのがわかるだろう。酸素が入ってこなければ、心臓や脳といった重要臓器への酸素供給が当然落ちていく。酸素の消費量が著しいこうした臓器はたちまち機能が低下し、やがて機能停止に至る。

もともと高流量の酸素が投与されている患者では、すでに息も絶え絶えなので、声も出せないことが多い。「苦しい!」とか「やめてくれ!」とか断末魔の叫びも出ないだろう。声は出せなくとも、苦しさに抗おうとしてアドレナリンなどが一気に放出される。このため、一過性に脈拍数が増えたり呼吸数が増えるが、逆に酸素の消費が増えて、残り少ない酸素を使い果たしてしまい、「酸欠」状態に拍車がかかる。

 酸素が足りなくなると、先に述べたような下顎呼吸が起こり死に至る。