2014年2月1日土曜日

急変とみせかけて

「肺炎の高齢者が入院していた。呼吸状態が悪いので、酸素マスクで高流量の酸素を流していた。具合が悪いので家族が簡易ベッドを病室において付き添っていた。

家族が付き添ってから数日が経ち、肺炎もいくらか改善してきたころだった。夜中に、「先生、呼吸停止です」として呼ばれた。あらかじめ「蘇生処置は一切しないでほしい」という要望があったので、心臓マッサージなどはせず、そのまま静かに看取ることにした。呼吸が止まれば数分で心臓も止まる。担当医が駆けつけた時には瞳孔も開いており、家族がそろっていたので死亡確認した。死亡診断書を「肺炎」として記入した。家族に連れられて退院された。」


肺炎は日本人の死因の3位だそうで、高齢者の場合には突然呼吸が止まるという事態がわりとよくおこりうる。ここで触れたエピソードも別に何の変哲もない話だ。

ところが、重症の肺炎でぐったりしている人だとどうだろう。そりゃあ、うんとひどい肺炎の場合には挿管されて人工呼吸器管理されたりして、ICU管理となっているだろうから、家族が付き添うことは難しいだろう。そのかわり看護師がほぼマンツーマンで24時間対応してくれるので心配はいらない。
かといって、どこの病院にもICUがあったり、いつも手厚く看護師がいるわけでもない。不調を訴えてもすぐにナースコールを押せないこともある。モニターを付けていても、夜中だと看護師の配置が薄いので、常にチェックできているわけでもない。アラームが鳴っても、すぐに巡回に来られるわけでもない。

ぼくが担当した患者さんではないが、あまりに急な経過で死亡したので家族が酸素を止めた可能性を否定できない方がいた。

酸素を10Lとかで流している患者さんの場合、酸素のダイヤルをひねって0Lに勝手に下げればみるみる低酸素となり、呼吸は止まり心停止に至る。重症度にもよるけれど、その間早ければ数分というところか。心停止になったあとで酸素のダイヤルを元通りに戻しておけば何の証拠も残らない。

急に亡くなったわけだけれど、肺炎の経過と考えても一応の説明はつくし、何の証拠もないので警察に相談しても「病気で死んだってことで説明できるんですよね?」といわれおしまいとなった。警察としてはもしも司法解剖したところで、「重症な肺炎ですねー」という以上に何かわかるわけでもないので、本音は関わりたくないんだそうだ。

病院としても刑事さんにねちねち聞かれて業務が止まるし、「●●病院で医療ミス」なんてマスコミの餌食になると覚悟して連絡したのに、そんな木で鼻をくくったような対応なのかとあきれた。

つまりは、その気になれば恨みや相続の関係で早く死んでほしいと願う家族が付き添って、暗くなるまで待って、酸素のダイヤルを一ひねりするだけで簡単に完全犯罪ができてしまうわけだ。

病院の夜は怖い。

0 件のコメント:

コメントを投稿